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目次


●    左右の手の経過
●    ボトックス注射治療
● 基本となるテクニック
●    体の使い方
●    第一関節について
●    ストレッチ

●    手の甲のアーチ
●    親指について
●    最後に

 

 

 

左右の手の症状の経過

左手
1999年 3の指から巻き込みが始まり、4・5の指まで巻き込みが広がる
2002年 ボトックス注射治療を2回受診し、ペーター・フォイヒトヴァンガ
      -氏のエクササイズを学ぶ
2007年 5の指に再び巻き込みが始まり、以降完全に第一関節を固定しな
      い弾き方に変える(指先が反り返った状態)

右手      ボトックス注射治療は受診していません

2005年 5の指に巻き込みが始まる
2009年 第一関節で掴むような弾き方を始めたところ、3の指に巻き込み
      始まる

ボトックス注射治療

指の巻き込みが非常に強い場合は、ボトックス注射治療を試してみる価値はあると思います。私のケースも巻き込みが強く、ピアノの鍵盤であれPCのキーボードであれ、指先が何かに触れて脳に刺激が送られると自動的に巻き込みが始まってしまいリハビリも何も始められない状態でしたが、ボトックス注射治療で指の巻き込みを抑えることが出来ました。
詳しくは専門の医療機関に問い合わせてみて下さい。

基本となるテクニック

手を鍵盤の上(鍵盤を押し下げた底の位置)に置くだけ。置く過程で鍵盤は押し下げられて音が鳴ります。
この置くだけ、置いているだけに必要な最小限の力。この力をゼロにすると、腕は肩からまっすぐ下に垂れ下がります。
鍵盤を押さえつけているわけでもなく、手から肩までの腕全体を宙に浮かせているわけでもない、ただ置いているだけの状態。
言葉で説明するのはとても難しいですが、この「置いているだけ」の感覚がつかめれば、ピアノを弾くということはかなり楽になるはずです。この感覚は、アレクサンダーテクニックなどを学ぶ過程で会得出来るのではないかと思います。

体の使い方を学ぶ

正しい姿勢のこと、体の骨格・機能に即した腕の使い方、指先から手首・肘・肩までの連動した動きを学ぶことで最小限の労力で最大限の効果を得るテクニックを修得することは非常に有益でしょう。
アレクサンダーテクニック、フェルデンクライスなど様々な方法、アプローチの仕方があるようですので色々と勉強されることは無駄にはならないでしょう。

第一関節について

皆さんは自分自身の手のことを本当に正しく理解できているでしょうか?
私の場合は全く理解出来ていなかったと言わざるを得ません。
ジストニアを発症後、ボトックス注射治療を経てリハビリを開始した時点であることに気がつきました。
それは、ピアノを学び始めた子供たちや初心者の多くが第一関節で指を支えることが出来ずに指先が反り返ってしまったりするように、第一関節を固定することがとても難しくグラグラしてしまうということでした。
おそらく、これはジストニアを発症後ボトックス注射治療で神経の繋がりを遮断したことで、第一関節を固定する為にそれまで維持されてきた力が排除され、生来の自然な手の状態に戻ったものと思われます。
私自身、ジストニアを発症する以前は第一関節を固定する為に力を加えている自覚はありませんでしたし、意識したこともありませんでした。

そればかりか、自分の指の第一関節が先天的に反り返りの強いタイプであることすら認識出来ていませんでした。
ピアノ学習の初期段階では意識して力を加えていたものが、その後どういった過程を経て自動化され、無自覚のまま保たれるようになるのかは定かではありません。
しかし、私のように先天的に第一関節の反り返りが強い人にとって、打鍵の際に指先に負荷がかかっても反り返らないように第一関節を固定している状態は、第一関節を曲げる働きをする深指屈筋と第二関節を曲げる働きをする浅指屈筋、この二つの筋肉の連携で保たれています。
これをジストニアの症状に即して分かり易く言い換えると、第一関節を巻き込む方向に動かす筋肉と第二関節を巻き込む方向に動かす筋肉に恒常的に力を加え続けていることになり、この力がコントロールを失い、暴走し、巻き込みが始まってしまうように考えられます。
多くの人がこの指先を立てて第一関節を固定する弾き方でピアノを弾いてきたでしょうし、この弾き方での回復を目指してリハビリを行うことになると思いますが、この弾き方では事実上指の巻き込みを引き起こしている筋肉を使いつつも、巻き込みを起こさせないという無理難題に直面してしまいます。
このバランスを保つ為に要求される力のコントロールはあまりにも精妙で、実践的とは言い難く、この弾き方で自在なレベルまでの回復を目指すことがいかに困難かはジストニアについて調べればすぐに分かるでしょう。

又、ジストニアを発症してしまった人、即ちジストニアになりやすい因子を持った人が、また同じ筋肉を鍛えて第一関節を固定する弾き方に戻せば、同じ症状を繰り返すのは当然と言えば当然であり、私自身も何度も繰り返して来ました。
しかしながら、ピアノは指先を立てて第一関節を固定して弾くもの、という既成概念を打ち破ることはそうそう簡単に出来るものではなく、長い時間を必要としました。実際、過去の巨匠たちを含めて大抵のピアニストは第一関節を固定して弾いていますし、それこそが唯一の正しい弾き方であると刷り込まれてしまっていたからです。


本当にそうでしょうか?


ここで長年の問題の解決のきっかけとなった奏法、つまり、第一関節を固定しない奏法を実践しているピアニストの代表的な例として、ダニール・トリフォノフとニコライ・ルガンスキーが挙げられますので、YouTube 等で彼らの指先がどのように鍵盤にタッチしているかをよく観察しながら視聴してみて下さい。
反り返った指先で鍵盤を捉えている場面が多いことに気がつかれることでしょう。
現代ピアノ界の頂点で世界的に活躍している彼らが、これまでのピアノ教育では絶対的に否定されてきた奏法を実践している事実はとても興味深いことです。そして、彼ら以外にも既成概念に囚われることなく、自身の手にとって最も自然な弾き方として第一関節を固定しない奏法を選択している若いピアニストが少しずつ出てきています。

この第一関節を固定しない奏法を具体的に説明すると、第一関節・第二関節には一切の力を加えることなく、第三関節から虫様筋を使って完全に脱力した状態の指全体を自分の方に引き寄せる動きで鍵盤を押し下げて音を出します。
その結果、第一関節は固定されていないので第一関節から先は反り返り、指先全体で鍵盤を捉えていきます。(反り返る程度は第一関節の可動域の大きさによる為、個人差があります。一切反り返りのない指を持つ人の場合でも、肝心な点は第一関節の可動域の端の位置で鍵盤を捉えるようにするということです。)
指の巻き込みを引き起こしている、第一関節を曲げる深指屈筋、第二関節を曲げる浅指屈筋は基本的に使用しないので再発の可能性を最小限に抑えることが出来、ジストニアを発症してしまった人にとって最大限の演奏の自由度を得られるはずです。
又、リハビリの初期段階で第一関節が巻き込む方向とは逆の反り返った状態で鍵盤を捉えることになるので、巻き込みの防止・抑制の点でも効果的です。

注1、    勿論これは基本となる弾き方で、音型・手の形によっては必然的に指先が立った状態で鍵盤にタッチすることもありますが、第一関節に力を加えて固定している状態とは本質的に全く異なります。
注2、    この第一関節を固定している力の存在を自覚出来ていない人は、第一関節から先が反り返っている状態を、強い力で押し込んでいる状態と誤解されるようですが本質的に全く異なります。固定されていないので少しでも負荷がかかれば反り返ってしまうだけなのです。


 

人間の手は同じように見えても、人それぞれで

●    第一関節から先が先天的に反り返らない(ピアノを弾く上で最初から第一関節が固定出来ている為、力を必要としない)

● 第一関節から先の反り返りが弱い(わずかに反り返っていたとしても特に問題にされない)
●    第一関節から先の反り返りが強い(負荷がかかった時に大きく反り返ってしまうので、これを固定することに非常に労力を要し、その力を常に維持しなくてはいけなくなってしまう)

上記のように、先天的な個人差が大きいと思われます。

第一関節の可動域の大きさに個人差がある以上、鍵盤を捉えた時の指先の角度は人それぞれ異なるはずです。
これまで通用してきた『ピアノは指先を立てて第一関節を固定して弾くもの』という考え方は、先天的に第一関節が反り返らない指を持つ人にとっては最も自然な弾き方であると言えるでしょう。しかし、第一関節の可動域が大きく反り返りの強い指を持つ人がその弾き方を実践する為には、第一関節を固定する為だけに膨大なエネルギーを必要としてしまいます。
たとえ第一関節を固定出来たとしても、その困難さから本来必要のない筋肉まで力んでしまうことで柔軟性を欠き、瞬発力や敏捷性を犠牲にしてしまっては自由なピアノ演奏からは遠ざかるばかりで本末転倒です。
又、音を鳴らすという行為には本来関係のない、第一関節を固定する為に必要な力が自覚の有無に関わらず常に維持されることになり、本当の意味での最小限の労力で音を鳴らしていく感覚は得られなくなってしまいます。そして、このことは音そのものに影響を与えてしまいます。
ピアニストの練習量の多さ、長い音楽人生を考えた時、無駄な力はできる限り排除されるべきで、各々の先天的な手の個性に沿った自然な弾き方を選択するべきでしょう。

私の場合も、第一関節を固定しない奏法を選択した現在感じられる、手・指の鍵盤上での安定感、密着度の高さ、ピアノとの一体感はジストニアを発症する以前には感じたことがないものです。
分かり易く例えるならば、常につま先立ちで歩いていたものを、足の裏全体で地面を捉えて歩くように変えたぐらいの変化でしょうか?その違いの大きさは容易に想像がつくでしょう。そして、そんな不自然なことを続けていれば、いずれ破綻してしまうのは明らかではないでしょうか?
人間の手は同じように見えても、個性があり、機能的に差があり、体質的に決定的に合わない弾き方を続けた結果がジストニアというかたちであらわれているように思うのです。
ジストニアのリハビリにおいて、先ずは自分自身の手の先天的な個性・特質をしっかりと見極めることが重要で、それに応じた奏法を選択することが回復への鍵となるでしょう。

ストレッチ

人間の手は日常生活において物を持ったり掴んだり、筋肉を収縮させて指を巻き込む方向に曲げて使うことが大半です。更にピアニストは毎日何時間も手の形を作ったまま指を動かす作業を行いますので、それを長期間続けた結果、柔軟性を失くして手が硬直してしまいがちです。
ジストニアを発症した人は、指全体を反らすストレッチと第一関節を可動域の端の位置まで反らすストレッチを無理のない範囲で行うことが、巻き込みの緩和と柔軟性を取り戻す上で有益でしょう。
又、この方法でこれまで維持されてきた第一関節を固定している力を取り去り、生来の自然な状態に戻すことも可能です。

手の甲のアーチ

私自身を振り返ってみてもジストニアを発症してしまう人は、手を必要以上に収縮させた状態(握りしめた状態)で弾く傾向があるような気がします。
指がしっかりと鍵盤の上に立つことを支えてくれる手の甲のアーチを保つことは大事です。
各指の付け根の骨をしっかり出すことで、手が必要以上に収縮することを防ぎ、各指の独立した動きの補助にもなります。

親指について

親指は他の4本の指とは、形状・機能・演奏時の動かし方・鍵盤に触れる指先の場所が全く異なります。
私自身、親指にはジストニアを発症しておらずリハビリの経験はないのですが、一点だけ気をつけていることがあります。それは、特にその必要もないのに親指の第一関節が掌側に折れ曲がっていないかということです。
力を加えない限り、親指の第一関節が掌側に折れ曲がることはないはずですので、無自覚に力を入れ続けている証拠です。こういった無自覚な力の持続がジストニアの引き金になりかねません。

最後に

長年にわたる試行錯誤の末に辿り着いた対処法を、出来る限り分かり易く解説してきた次第ですが、同じ巻き込むタイプのジストニアであっても症状の程度は人それぞれであり、私のこの対処法が全ての人にとって最適であるとは言い切れません。
又、ごく一部の指導者・ピアニストにとってこの対処法の基になる奏法は目新しいものではないと思いますが、まだまだ一般的と言える状況ではなく理解されないこともあるかも知れません。
それ故に、ジストニアの対処法の一つの可能性として広く知られるようになり、一人でも多くのジストニア患者が再び自由にピアノを弾くことが出来るようになることを願っています。
そして、ピアノ教育において各個人の手の個性の存在を認識し尊重した上で、画一的ではなく柔軟な姿勢で才能を伸ばしていくことが大事だと思うのです。


 

 


 

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​ジストニア

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